コラム19:弁護士 中田 雅久

中古車売買についてのトラブル事例(走行距離メーター巻き戻し)

2012.11 弁護士 中田 雅久

 少し前のことになりますが、私が担当した事件をご紹介します。
 中古車を探していた私の依頼人は、ある中古車販売店が雑誌に掲載していた広告を見て、販売店を訪れました。そこで中古車の売買契約を締結し、私の依頼人は代金を支払い、車の引き渡しを受けました。

 しかし、その車は、購入直後からトラブル続きでした。
 そして、修理のために工場に持ち込んだところ、メーカーが共有していた修理履歴のデータから、走行距離メーターが約10万キロメートルも巻き戻されていたことが判明したのです。
 中古車の購入を決める際には、当然、走行距離が重要な判断のファクターであり、雑誌の広告や車のフロントガラスに掲示されたプライスカードにも走行距離を示す数字の記載がありました。また、販売員から口頭で走行距離についての説明も受け、契約書にも、走行距離を示す数字の記載がありました。
 相談を受けた私は、当初は、それらの事実を指摘して交渉をすれば、契約は簡単に解約され、代金も返還されるだろうと考えていました。

 ところが、販売店側は、その車はオークションで仕入れたものだから走行距離メーターの数字が正しいことは契約の前提になっていないし、走行距離メーターの巻き戻しがされていても知ったことではない、販売員も走行距離の話などしていないし、プライスボードや契約書にも走行距離を示す数字の後に?マークを付けているではないか、?マークを見落としたのは客の重過失だなどと主張し、解約に応じようとはしませんでした。さらに、ウチはずっとこのやり方、この契約書で商売をしてきて、何度も裁判を起こされているが一度も負けたことはないなどと豪語する始末でした。
 確かに、契約書には走行距離を示す数字の後に?マークがついていました。後でクレームを付けられた場合の逃げ道を予め用意していたことは明らかでした。

 私と依頼人は、裁判を起こし、その中で、販売店が雑誌に載せた、?マークなしで走行距離を示す数字のみが記載されている広告を探し出して証拠として提出しました。また、販売員を証人尋問して、契約書の作成状況や、契約書の中の不自然・不合理な記載を厳しく追及するなどしました。
 裁判所は、私と依頼人の主張を全面的に認め、本件契約は錯誤により無効とし、販売店側に売買代金の返還を命じました(なお、販売店側は控訴しましたが、控訴審の裁判所も、第1審の考え方を支持しました)。
 今回のケースでは、十分な証拠もあって、錯誤による無効という法律構成が採用されましたが、似たようなケースでは、他にも、消費者契約法による契約の取り消し、瑕疵担保責任の追及等の主張も可能な場合があります(他方で、詐欺であるとまで認めてもらうのは、一般的には困難と考えられます。)。

 本件は、結果的には満足する成果を上げることができましたが、中には、お金が返ってくればよいという問題では済まない場合もあります。車というのは、人を乗せて道路を高速で走るもので、現に、私の依頼人も、その車に小さな子どもを乗せて走っていました。車の安全性には、当然、十分な配慮が必要で、走行距離は、安全性を計る重要な指標です。
 本件で、走行距離メーターを巻き戻したのが誰で、どの段階で巻き戻されたのかは不明なままでしたが、少なくとも、それまでも何度かトラブルがあり裁判になっていながら、客には何の注意喚起もせずに購入を薦め、裁判対策として契約書やプライスボードに細工をしておけばよいという態度は、危険が伴う車を扱う業者の態度として、甚だ疑問です(なお、財団法人自動車公正取引協議会がHPで公表している規約に基づく適正な表示方法は、以下のとおりで、本件で販売店が行った数字の横に?マークとつけるというものとは本コラム執筆時点で異なっています。)。
 http://www.aftc.or.jp/pdf/mileage_reasonable_panf.pdf

 国民生活センターによると、中古車売買については、走行距離メーターの巻き戻し以外にも、様々なトラブルの事例が報告されています。
 http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/chukojidosha.html

 万が一、中古車の売買を巡るトラブルに巻き込まれた場合は、弁護士に依頼することで解決できることも多いですので、遠慮なくご相談下さい。

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