コラム60:弁護士 宮本 康昭

裁判は政治権力から自由でいられるか

2018.3.1 弁護士 宮本 康昭

 裁判官の判決行動を規定するものはなにか。そりゃあ「憲法と法律」そして「自分の良心」でしょう。憲法にそう書いてあります(憲法76条3項)。というような問題をこの間の事務所会議で報告しました。そのことを、その後の出来事もつけ加えて簡単にまとめました。

1.
 沖縄・名護市長選挙は辺野古推進派が公明党・創価学会の協力のお陰で勝利しました。安倍首相は勢いに乗じつつ「最高裁判決に従って(辺野古埋立てを)進めていきたい」と述べました(18. 2. 6 東京新聞)。
 政権の錦の御旗となった最高裁判決とは2016年12月20日の第二小法廷判決のことですが、この判決は上告からわずか3ヶ月、安倍首相のトランプ訪問にギリギリのところで埋立着工が間に合うというタイミングで出された曰くつきのものでもありました。この「上告から3ヶ月」というのは他に類例を見ないもので(他に例があったら教えて下さい)、安倍首相の日程に間に合うように政治的な配慮をしたとしか考えられません。

2.
 2018年2月7日に名古屋高裁は昨年秋の衆議院選挙は定数格差があって違憲状態だという判決をしましたが、問題はそれまでの、上から順に札幌、仙台、同秋田支部、東京(2ヶ部)、名古屋・金沢支部、大阪、広島・岡山支部、同松江支部、高松、福岡、同那覇支部の12の高裁判決がすべて合憲判決だったことです。合憲判決はそろって定数格差が2倍に収まっていることを挙げていますがそれが実は1.98倍なのです。名古屋高裁判決が2倍を下まわったと言っても「極めて2倍に近く、容易に看過し得ない」と述べ、一人別枠方式廃止の必要を指摘した2011年最高裁大法廷判決から7年近く経っているのに国会がこれを未だ廃止するに至っていないのは立法府の「大法廷判決を尊重する意思には疑問を生じざるを得ない」と指摘する通りです。
 合憲とした裁判官たちは、そうしたことには目をつぶって国会、つまり政権与党とことを荒立てない方法を選択しているのです。泉徳治元最高裁判事が「一歩前へ出る司法」という本の中で、裁判所は国会の決断を待って譲歩を続けているが、相手にやる気がないのだから違憲判決をした方がいいのだ、と言っているのは、このような裁判官たちの姿勢を指しているのでしょう。

3.
 泉さんのこのような態度は本当に正しいと思うのですが、実はこの本の中に出てくる裁判所の判決姿勢には、驚くべきものがありました。
 「立法府との軋轢を生じさせる問題であることが裁判所を慎重にさせた」(再婚禁止を違憲とし、一方で夫婦別姓禁止を合憲とした対応の違いについて)、「影響の範囲が限定的だとやりやすいが日本全体に影響を及ぼすと慎重になる」(婚外子の国籍取得と相続分との違い)、「国会との対立も強くなるから一歩後ろへ引く(一票の格差)、等の判決態度がまことに率直に語られています。

4.
 憲法と良心以外の何物からも自由であるはずの裁判官が判決が及ぼす影響、殊に政治への影響をこれだけ配慮していることを最高裁の中にいた人が指摘しているのです。国会(政権与党)の反発を虜って違憲判決を差し控えるという配慮をするなどということは裁判官にとってあってはならないことです。国会の立法が憲法違反となることがあり、それを是正するのが違憲立法審査権の役割であり、その審査権を持つのは裁判官しかないのですから、その権限行使に「憲法と良心」の拘束以外の考慮を働かせることは裁判官の役割放棄です。
 判決の影響の範囲が広いか狭いかで違憲判断が左右されるというのもあってはならないことです。範囲が広く、数が多く、あるいは声が大きければ違憲の法制度でも許容されるという事態は「法の支配」ではありません。憲法が予定しているのはそれとは逆のことでしょう。しかも裁判官たちが「憲法と良心」以外のさまざまなことに政治的に配慮した判決はときには政治権力によって辺野古の場合のように利用され、ときには2011年大法廷判決のように無視されています。

 私たちは改めて裁判官に言わなければなりません「裁判官は憲法(76条)を守れ」

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