【3・11 東日本大震災福島原発事故特集】

小野寺信一弁護士との対談の全文/3

-座談会-

【宮本】
 今、原発の訴訟はないんですか。

【小野寺】
 福島第二原発訴訟は今はないですね。最高裁で棄却されて。

【宮本】
 最高裁の判決は。

【杉井静子】
 平成4(1992)年。

【宮本】
 実態審議は始まっていましたか。

【小野寺】
 もちろんそうです。福島原発というのは、本当に一番古いんですよね。昭和41(1966)年に安全審査がかかっていますから、私たちがやったのは第二原発ですので、第一原発がほとんど出来上がった後ですね。結局、第一原発のときには反対する人たちを結成できなくて、裁判まで行けなかったと言っていましたね。第二原発のときに400人、原告を構成できて裁判をやることができたのですけれども、それでも2年半ぐらい訴えの利益で、もう時間が食わされてしまって、訴訟に入ったのは大分後でした。ちょうどスリーマイル島事故が起きるころから、ようやく裁判所も、じゃあ実態審議に入ろうかということで、2年半ぐらい、本当に無駄な議論をさせられたという記憶がありますね。

 それでこの前、私が車を取りに鶴岡に行ったときに、脇山先生と原発の昔話になって、彼も私も忘れられない言葉があったんですね。それは、被告の準備書面にたびたび出てくる言葉なんです。「危惧懸念の類」という言葉なんです。原告の言っていることは危惧懸念の類だと。第一、今まで起きたことないじゃないかということだったんですね。スリーマイル島が起きるまでは、現に起きてないじゃないかと。起きたら起きたで、今度はいやいや、あれは人為ミスだという話になってしまったのですけれどもね。

 第一原発はゼネラルエレクトリックがつくって日本に持ってきたのですが、GEの社員で設計に加わった人たちが2人、その後、とてもじゃないけれどもこんな危険なことはできないというので告発して辞めたということもあるぐらい、これは古い炉なんですね。それから40年以上経っていますので、あちこちが傷んでいるし、これから情報公開がどこまで進むかわからないのですが、地震そのものによって配管が破断して、津波が来る前に冷却水が喪失したのではないかという疑いも今出てきています。ですから、そこがおそらく勝負どころで、地震そのものによって格納容器がひび割れするとか配管が壊れたということになると、これは全国の原発に共通することなので、そこまで行かないようにしようとして、福島原発事故の情報公開が極めて恣意的に行われるのではないかという疑いを持っています。

【宮本】
 今、しきりに津波に誘導しようとしていますね。IAEAも今度の報告はそれに引きずられた感じが。

【小野寺】
 引きずられた感じがします。だから、本当の原因というものを本当に出してくれるのかどうかですね。女川なんかは再稼働したいのですけれども、地元がうんと言わないと。地元は国が新たな指針を出して、それをクリアしなければ認めないという状態です。そうすると、国の安全審査、新たな指針がどういう中身になるのかということが一番大事なのですが、それは結局、津波でこうなったのか、地震そのものでそうなったのかというところが一番重要なところなので、はたして本当のことが出てくるかどうかです。

【杉井厳一】
 東電が地震では破損していなかったというようなことを、発表されたというふうに。

【小野寺】
 最近の新聞では、どうも地震そのもので破損した可能性もあるということが2~3、報道では出てきていますね。放射能が出る時期が早すぎた。何号機だったか、ちょっとメモをしていませんでしたが、その可能性はあるんじゃないでしょうか。配管が破断して中の冷却水がなくなったと考えたほうが計算が合うという記事が出ていました。

 結局、あそこの中に入っている放射性物質というのは、原爆などの量と桁がまるで違うんですよね。何万倍という形で入っていますから、その出方いかんで日本の国を壊滅させることもできるし、何だってできてしまうわけですね。だから今、国会でこんなことをやっていますけれども、あの汚染水をどうするのか、あれだってもう全く検討がつかないですよね。フランスの何とかという会社でやるというのですけれども、1トン1億円とか何とか言っていますよね。20兆円を一体誰が出すんだと、ぼったくられているんじゃないかという気もするのですが。かといって水を入れ続けなければならない。

 たぶん今はもしかすると燃料棒は圧力容器から落ちて、格納容器の底に溜まっているかもしれない。もし圧力燃料棒は容器の中に入っていれば、これはスリーマイル島と同じなんですが、今はもう、どうやら圧力容器の中にとどまっていたとしても穴が空いているので、水がかけ流しみたいな状態で流れていって、結局水に接する面積が狭いものですから、なかなか冷えないわけですね。通常は、燃料棒というのはこのぐらいの太さで吊っていて、そこに制御棒というのが数秒でドンと入ってしまうんですね。その制御棒が中性子を吸収するものですから、核分裂反応も瞬時になくなるわけですけれども、中の放射性物質が出す放射能がエネルギーとして熱が出るわけで、もうガクッと下がることは下がるのですがゼロにはならない。入れた瞬間に数パーセントまで熱は下がるのですが、10秒後には6パーセントまで下がります。1時間後には1.8パーセント、1日後には0.8パーセントまで下がるのですが、それでも1日後の0.8パーセントでも2.4万キロワットぐらいの熱を持っているものですから、今現在、中は3,000度ぐらいに熱せられて、表面だけが冷やされているという状態です。こういう状態であれば水が中を行き渡っていますので、表面積が広いものですから冷えるのですけれども、上だけが冷やされている状態なので、いつになったらどうなるかというのは全く検討もつかないですよね。二号機が循環ができたというのですけれども、1、3、4の循環がまだできないんですね。このままずっと水を垂れ流すとなると、その水をどうやって交換していくのかという、人類がいまだ経験したこともない状況に今あるわけですよね。

 スピーディーだって予測した結果が当時の11日、12日とか、14日、15日の結果を発表していないんですよね。だから、一番危ない時期に、館腰村なんかでは寒くて子供たちを外で遊ばせていたというわけです。あの当時、どれぐらいのものが空気中にまき散らされたのかというのは、データとしてはわかっていない。さんざんまき散らされたところで生活をさせておいて、今になって計画的に避難しろというのはあべこべじゃないかと怒っています。それだって、そのデータを発表するしないというのは誰が決断したのかということですよね。最終責任は政府にあるのか、東電にあるのか。おそらく後で調査をすればヤブの中みたいな話になるんじゃないでしょうか。だから、最初の段階でさっき言ったように、誰が最終判断を下すのかという、その原理原則が確認されないまま突入してしまったので、班目さんみたいな安全審査委員会の委員長が出てきて、ゼロパーセントじゃないと言ったら空気が変わったとか言っているわけでしょう。それが社長に伝わったとか伝わらないとか、何をやっているんだという感じですよね。

【杉井厳一】
 どうぞ、ほかの方も。

【松縄】
 僕も今回の件で原発の危険性というのがニュースとかで報道されるまで、そんなに危機感というのは率直に言ってなかったのです。僕の世代だとスリーマイルのときにはまだ生まれていなくて、チェルノブイリのときにもまだ何歳かということなので、当時じゃあ日本でどういう報道がされたとかも全然わからないし、名前とかは当然知っていますけれども、どれだけの危機感を持たれていたのかというのは全然わかっていないところがあって、そういう意味で原発がどれだけ危険性を持ったものなのかというのがわからなかった。たぶん自分だけじゃなくて皆さんもわかっていないところがあって、そういう意味で原発の危険性があまり一般的に知れ渡っていない、完全に解明されていないんだということをみんながわからなかったというところがあると思うんです。

 ただ、僕なんかは原発からある程度、距離的に離れたところにいるので、原発訴訟とか当然、周辺何キロとかという距離の方たちだと思うのですけれども、そういう方たちの認識としては原発の危険性というものに対する認識というものが、僕たちと違ってどこまで深いものというか、具体的なものなのでしょうか。

【小野寺】
 全く同じですね。むしろ、そのおかげで食べているという人がいっぱいいますので、さっき言った利権構造に完全に組み込まれているので、そうなるとどうしても信じたくなりますよね。全く同じです。だって今回、女川原発で被災者の人たちは原発の中に避難しているのです。いまだに200人くらいいるのですから、それだけもう安心し切っている。女川原発だって危なかったんです。余震のときだって外部電源が一時喪失して、やっとこすっとこやったでしょう。ですから同じじゃないでしょうか。

 私も15日の夜、家族を説得して行こうというときに、考えてみると外に出るとみんな平気でスーパーの前で並んでいるわけですよね。俺のほうが頭がおかしいんじゃないかというふうに思いました。しかし、その危ないということを察知していて逃げる能力もあるのに、それをしなかったために後で取り返しのつかないことになったら死んでも死にきれないというふうに思って家族を説得して、うちの奥さんも娘も、まあお父さんがそこまで言うならしようがないから付き合ってやるかという感じで付き合ってくれたのですが、今報道を聞いていて、特に11日、12日、それから14日、15日、16日のあたりが仙台だってそれだけ被爆したのかわからないという状態を知って、よかったんじゃないかというふうに言ってくれたのですが、家族ですら同じなんです。絶えずそのことを話ししていたわけじゃありませんから、震災で冷却不能ということになって初めて私が実はこれ、とんでもないことなんだということを言い出して、家族もぽかんとして最初聞いていたのですが、あまり私が深刻に言うものですから。

 私はうちの息子が京都に住んでいて、孫も京都にいるのですが、もし大事故になった場合に首都圏から一斉に関西に逃げるだろうと。そうすると、京都にいても逃げ遅れてしまう可能性がある。ラッシュに巻き込まれて逃げられない可能性がある。せめて孫だけでも避難させろというふうに強く言って、奥さんの実家が佐賀だったものですから、佐賀に10日ほど孫だけ避難させたんです。嫁さんには後で笑い話になることを望んでいるけれども、ここはもう私の判断にいったん従ってくれと。後で何とでもお詫びをするからと頼んで、九州のおじいちゃん、おばあちゃんは10日間ですっかり4歳の孫に翻弄されて、もう限界だというので帰ってきたのですが(笑)。仙台弁護士会でも何人かの人は避難しましたが、ほとんどが避難していないので、同僚の弁護士には知識があるのも考え物だと言われて。そう言っていられるのが幸いなことではないかと言ったのですけれども。

 本当に15日、僕が生きている間に来たかと思いましたね。いつかはあるかもしれないとは思っていたけれども、まさか俺が自分が生きている間に来たかという感じでしたね。しかし浜岡だって危ないじゃないですか。運転停止したといっても外部電源が喪失すれば同じことになって、今度は東京が危ないんじゃないかと。

【杉野】
 危機に関する認識そのものがあまり都心の人間と変わらないということを今伺ったのですが、提訴当時の話なんですけれども、そうすると第一原発のときには結成し得なかった反対運動を提訴にこぎつけられたというのは、どういうことがあったのでしょうか。

【小野寺】
 これは私も提訴に至る経過はわからないのですが、科学者会議の方々が非常に協力してくれたお陰です。とてもじゃないけれども弁護士だけの力では遂行できなかったと思うのですが、福島の科学者会議の方々、それから東京の原発について研究している科学者の方々が全面協力してくれまして、そのおかげだと思うんです。今日の朝日新聞に志賀原発で差し止めの判決を書いた元裁判長のが一面に載っていましたけれども、結局、立証責任は原告側にあるわけですので、そうすると国の基準をクリアしているけれども、なお危ないということをこっちが言わなければいけないわけでしょう。これは、事故でもない限りは、なかなか難しいんです。向こうは国の基準をクリアしましたと。これで安全ですというふうに言えばいいわけです。それでも危ないんだと。指針自体がだめなんだということを言わなければいけないわけですから、大事故でもない限り、指針自体が甘いんだということを裁判官に説得するというのは、よほどの事情がないと難しいんじゃないでしょうか。

 そうなると裁判所に持ち込んでもだめなんだ、もっともなことがちっとも通じないんだということになると、やっぱり裁判所に頼ろうという気もなくなってきてしまうわけです。オンブズマンでも勝つこともあるんですけれども、負けることも多くて、行政裁量で負け続けたりすると、もうやってられないという気になるんです。じゃあ勝手にやったらという感じにもなって、裁量によっていかに行政が裁判所による甘やかしを受けてきたかというのは、つくづく感じますよね。

 オンブズマン活動の場合は、僕らがみずからが原告になってやるので、負けても一杯飲んでもう一回やろうかということで立ち上がるのですが、一般の市民はやってられないという感じですよね。じゃあ勝手にしたらという感じなので、なかなか市民運動として裁判を使って事実を変えていくというのは、結構大変です。うまく勝てばいいのですけれども、負けたりすると何かもうやっていられないという気がして。

 だから、私も十何年、オンブズマン活動をやっていますけれども、モチベーションを維持して、しかも若い人たちに関心を持ってもらって、うまく世代のバトンタッチをしていくというのは、なかなか大変です。仙台は幸いバトンタッチがうまくいって、私たちは完全に一線から退きまして、40期ぐらいの人たちが中心になってやってくれていますので、非常に助かっているのですけれども。

【宮本】
 宮城県の場合は、一時期、行政の対応がよかったというのがありますか。それで力づけられたと。

【小野寺】
 結局、何だかんだ言っても裁判のおかげで変わってきていますからね。例えば、議会の政務調査費なども宮城県を相手の裁判でやって、今宮城県議会の政務調査費は先に自分で使って後から請求する。会派がそれをチェックして出す、それを全部記録に残すというようなことで制度和解をしましたし、何だかんだ言っても変わってはいるんですね。変わってはいるのですけれども、裁判所との関係で本当に空しさを感じることがたびたびですよね。

【杉井厳一】
 仙台が一番成果を上げているのではないですか。

【小野寺】
 いや、結構負けているのは多いです。本当にもう誰が考えてもおかしいと思うことでも、裁量逸脱ということになると、点数で言えば20点でもオッケーなんですよね。0点だということを言わなければいけないわけでしょう。しかし、例えば議員がどこかに行って調査をしたと。町を歩いたって都市計画を見てきたと言えばそれで済むし、全く無駄ということはないんですよね。それを完全に無駄だということをこっちが言わなければいけない。点数で言えば10点でもオッケーです。裁量の範囲内だと言われてしまうと、何かもうやっていられないという気になることもあるんですよね。

【杉井厳一】
 幾らか行政法上、裁量をチェックしようという動きはあるようですけれども、そのあたりはあまり効果がないですか。

【杉井静子】
 若干、法改正もあったかと思うんですが。

【小野寺】
 行政の改正作業、日弁連の委員会に入っていましたけれども、その議論はされましたが、全然現場には出てこないですね。本当に議員の証人尋問で、とことんやっつけて、すっかりいい気持ちになって、でも判決見ると全然。そうすると、向こうは元気づくわけです。裁判所のお墨付きを得たということになってしまうと、やらなかったほうがよかったかなと。

【杉井静子】
 諸外国では立証責任の転換とか、そういうのはあるんですか。

【小野寺】
 どうなんでしょうね。私も諸外国まで研究したことないですけれども、裁量というのは本当に原発もそれで負けたのですけれども、何なんでしょうね。

【杉井厳一】
 一応、原告適格については、最高裁のあれで広がった面もあるからね。

【小野寺】
 原告適格は、かなり広がったのですけれどもね。

【杉井厳一】
 そういうのがあるから、今一番は、やっぱり裁量なんでしょうね。

【小野寺】
 原発だって、事故によって初めて裁判所の判断がおかしいということがわかって、さっき私、東西線の話をしたのですが、私は2015年の開業まではどうしても生きていなければいけないわけで、開業初日の乗客数を見届けなければいけないのですが、そこで我々の予言がもし正しかったとすれば、そういう形でしか判決の誤りを立証できないことになるわけですね。そうすると、判決というのは一体何だったんだ、経過の中のエピソードの一つに過ぎず、結局、現実によって白黒をつけるしかないということになるわけですね。そうならないために起こした裁判なんだけれども、単なる経過のエピソードの1つに過ぎないことになってしまうのかなという、原発はまさにそうなんじゃないでしょうか。

【杉井厳一】
 起きてみたら大変なことになってしまうとね。

【小野寺】
 そうならないために裁判をやっているのですけれども、そうはなかなか難しいですよね。

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【杉井厳一】
 尾久さん、どうですか。経験した目で先生の活動なんかもちょっと幾らか紹介してくれたら。あなたの目から見て。

【尾久】
 議会ウォッチングは今もされているんですか。

【小野寺】
 あれは、やりましたよ。だんだん我々も進化しまして、議会ウォッチャーというのをつくって、震災前、ちょうど2月に発表したんです。4年間、仙台市議会をみんなでウォッチして出続けて、それで通信簿を発表しました。ネットでどうぞ見てください、仙台市民オンブズマンで見ると「議会ウォッチャーズ仙台」というのが出てきますので。

 それだけじゃなくて、4年間の本会議の議事録を全部取って、質問について点数をつけて、その点数のランキングを出したんです。これは結構大変な作業でした。それで、いよいよ統一地方選挙で我々の成果ががどこまで生かされるのかというふうに思っていたら、大震災になって、それどころじゃなくなってしまった。

【尾久】
 地震の関係なんですけれども、ちょうど私がお仕事させていただいたころ、町村合併があって、歌津とか、あの辺の人が気仙沼地震があって大変で、債務超過でという方が結構いらっしゃっていた記憶があるのですけれども、今回の津波の被害を見ていて、その当時、小さな町がどんどん町村合併をして生活しずらくなるみたいな話を依頼者からちらちら聞いていたことがあって、何か影響があったのかなと思ったのと、私がいたときでも震度5くらいの地震で既に家計が破綻した人が結構いらっしゃったのに、これからもそういう倒産とか破産とかの関係というのは増えつつあるんですか。

【小野寺】
 増えつつあるというか、今、僕はADRの委員会もやっているのですが、震災ADRというのを新たにつくったんです。申立件数が、もう100件を超えました。それから今、仙台弁護士会では被災地に法律相談にこちらから行って、東京からも何百人か来てもらってお手伝いをしていただいたのですが、それはずっと繰り返してやっています。結局、ローンが残ったとか、海岸地帯はもう解雇の嵐です。ほとんどの会社はみんな解雇して、とりあえず失業保険で食ってくれということで、ハローワークの前はずっと人だかりがすごいですよね。事業者にとっては何億という債務があって、全部流されてしまうわけですから、どうやって再建していくのかというのは全く検討がつかないですよね。70センチ以上地盤が低下してしまって、本当に水浸しなんです。誰がやってくれるんだと。今の状態だと国の予算が動かないし、県も動かないしということで本当にがれきを撤去して、その程度ですね。

【杉井厳一】
 今の状態だと戦後の復興と違うところは、地盤は一応あって、そこはぐしゃぐしゃだけれども、そこを片付ければ土地が出てくるし農地も出てくる。今は、そうはいかんのですよね。

【小野寺】
 そうですね。農地といっても、いったん塩水がかぶっていますので、結構大変なようですね。急には使えないですね。それから、一番悩ましいのは水が上がったところに住まわせるかどうかということですね。ほかのところといっても場所もないし、結局は危なくても戻らざるを得ないんじゃないか。本当は、行政のほうでそこに規制をかけて建てさせないようにしようと思っているけれども、かといって、じゃあどこに行けばいいんだという話になってしまうんですね。

 私の両親なんかは、弟の家の隣が空いているものですから、早速簡単な家を今つくっているのですけれども、ほかの方々は仮設住宅に入るか、そうでなければ自分で土地を探して土地の取得からやっていかなければいけないのですから大変ですよね。義援金もまだ入ってこないし、生活支援金だっていつになるかわからないから、本当はそういう意味では管さん、早くしてよというのは、それは皆さん共通なんですが、谷垣さんになればじゃあ大丈夫かという類の問題でもないんですよね。

【尾久】
 東京側から手伝えることって何かないですか。

【小野寺】
 当初は下着なんかもなくて、うちの修習生が関西出身だったのだけれども、メールでいろいろ呼びかけたら私の事務所に段ボールで110個下着が来ました。毎日20個ぐらい、うちの事務所の離れがサロンになっているのですが、そこに山ほど重なって、それを男、女、男の上、女の下とかって全部分けて、サイズごとに分類して、バランスよく詰めて、あちこちに持っていきました。せっかく皆さんから送ってもらったので、気仙沼の大島にも送ったし、気仙沼にも送ったし、南三陸町も、ありとあらゆるところに持っていってもらって。当初は非常に感謝されました。今はお店も開くようになったので、そういう点では、一番必要なものというのはお金じゃないですか。だから、早く義援金とか生活支援金を出してもらいたいと思うのだけれども、予算が通らないせいなんですかね。

【杉井静子】
 あと、原発の情報公開というのは、どういう形でやっていけばいいんですか。

【小野寺】
 私らは宮城県に東北電力から出された3月11日以降の一切の情報と資料という形で情報公開しました。それから今度、宮城県から東北電力に出した情報と2つ開示させて、結局宮城県自身がほとんど積極的な監視活動をしてないじゃないかということをあぶり出していきたい。自治体の姿勢を徹底的に突き上げて改めさせるということなら、地元の住民が十分できることなので、そこに勝負をかけようかなと思っているんですね。宮城県がうんと言わなければ、さすがに女川原発は再開できませんし、石巻市がうんと言わなければ再開できませんので、そこを狙おうかというふうに思っています。

 そして国頼みじゃなくて、自治体がみずから安全監視体制を強化してチェックして、住民に対して大丈夫だよということが言えるような状態をつくれと。だって、今避難している地元の自治体は長年交付金で潤ってはきましたけれども、おそらくオセロゲームみたいなもので今までの分が全部チャラになっているじゃないですか。今まで20年、30年、いい思いをしたとしても、今後20年も30年も戻れないとなれば、何だったんだということになりますよね。だから、もうちょっと原発に対して厳しい目で見なければいけなかったのに、やすやすと利権構造の中に取り込まれて、自分たちは町民に対してとんでもないことをしてしまったというふうに反省している議員が何人いるか、いずれ聞いてみたいというふうに思うんです。今、あなたはどう思っているんだということをですね。本当にかわいそうです。テレビで皆さん見ておわかりだと思うんですが、故郷を離れるというのは本当に辛いことだと思うんです。

【両部】
 悪しき慣習っていうんですか、安心感だったり仲間はずれの恐怖感というので、つい神話をつくってそれに乗ってしまうという、これをしないために一人一人ができることというか、私でもできることって何かあるのでしょうか。

【小野寺】
 何なんでしょうね。

【両部】
 私は高校のとき生徒会にいたのですけれども、生徒会も悪しき慣習であったなと今話を聞いていてすごく思って、ある制度をつくろうと思っても始まったときと終わったときで役員が全然違う。半年ですぐ変わってしまって、先輩たちが何をやっていたかも全然わからなくて、何をどう責任取ればいいのか全然わからないみたいなところもあったりとか、変えようと思って動いても今までどおりにやるのが一番楽でいいというふうにも言われたことがあって。聞いていて耳の痛い話だったので、自分もこの中にいたんだなと思って。

【小野寺】
 それは日本の社会の中の至る所にあるんじゃないでしょうか。さっき申し上げました今日、朝日に志賀原発で差し止め裁判の判決を下した裁判長、今は弁護士になっているのですけれども、あの方がインタビューに答えて、やはり国の専門家が安全だと言っているのに、素人の裁判官がそれはだめだ、危険なんだ、差し止めろということは、それはなかなか言える雰囲気じゃないということを言っていましたよね。僕は、そういうのってあるんだと思うんです。変わり者というふうに見られてしまうという恐れですよね。まだ弁護士会なんかは変わり者がたくさんいるので、少々変わったことをしても誰も何だっていうことは言わないけれども、やっぱり裁判所みたいな均一な組織だと、少しでもそういう変わったことをすると、もうあいつはこうだというふうに見られてしまう。その恐れというのはとても大きいんじゃないかなというふうに思うんです。特に、日本はその傾向が極めて強い社会じゃないでしょうか。異端だというふうに思われてしまうと、もう居心地が悪くなってしまうわけですよね。それがやはり空気をつくっている犯人の一人ではないかと私は思っているのですけれどもね。

【宮本】
 今、裁判所というのは企業のほうを向いていて、行政のほうを向いていれば無難ですからね。それだと客観的に間違っていても別にそれでいいわけです。

【小野寺】
 僕は医療事故がかなり多いのですけれども、事故隠しというのにたびたびぶつかりますよね。それが暴かれて組織が外から叩かれてとんでもないことになってしまうということを見ているのに、なんで隠すんだろうというふうに思いますよね。しかし、考えてみれば、目の前のこの事故が隠し通せる事故なのか、暴かれる事故なのかというのは、これはちょっとわかりませんよね。そのときに隠し通せたにもかかわらず、気前よく情報公開したとすれば、これはきっと仲間内に批判されます。黙ってればいいのに、そんな正義感面して公開して、私たちは責任を取らされたとか何とかいって、いられなくなります。それよりは隠して、暴かれて叩かれても、それは全体が叩かれるわけですから、自分個人が叩かれるわけじゃないので、そっちのほうがよほど居心地がいいというか、ここだと思うんです。

 だから、どうしても隠すほうに行ってしまうんですね。確率に対する信頼でもあるけれども、同時にだめになったときに自分一人が叩かれたくないという、この恐れですね。たとえ暴かれた時のリスクが大きくても、ついつい隠す方向で判断してしまうんだろうというふうに思うんです。それだけに我々は事実をきちんと出して、神話の霧を少しずつ払っていかなければいけないだろうと思いますよね。

【麻生】
 原発のことなんですけれども、賛成意見は別として反対している人と特に反対じゃないという人の差って、原発の設備自体が安全かどうかというよりも放射線物質が健康に与える影響も危機感に変わる気がするのですけれども、この第二原発の訴訟のときは健康に対する害があるというのが当然の前提で判決がされたのか。設備だけの問題だったのか。

【小野寺】
 それもやりましたね。原発からもし放射能が漏れた場合の被害で、今、20ミリシーベルトとか何とかと言いましたけれども、私たちが裁判では閾値があるのかというのがずいぶん議論になりました。それ以下だったら大丈夫、それ以上だったら危ないという区切りがあるのかというので、我々はたぶん閾値はないと。どんなに少なくてもリスクはあるんだということをずいぶん議論してきました。
 今、この辺は0.05くらいですか。

【宮本】
 0.07とか。

【小野寺】
 仙台が0.1から0.09くらいですかね。年間だと大体1ミリシーベルト以下にはなるんですけれども、福島とか郡山なんかは大変なんですよね。本当は計画的避難区域に入るべきところなのだと思うんですが、とてもじゃないけれども、あれだけの人間を移転できないので置いているんじゃないかというふうに思っているんです。お母さん方が危機感を持っているのは当然で、だって子供たちが校庭で遊べないというのは僕は虐待じゃないかというふうに思うんです。机の上で腹筋なんかやっているでしょう。かわいそうですよね。子供が外で遊べない小学校、子供が外で遊べない保育園というのは何なんだという気がしますよね。しかも、それがいつになったら遊べるようになるかというのは、全然目途が立ってないですよね。

 それほど11日、12日、あるいは14日あたりに放射能がまき散らされたのですけれども、当時、情報公開がされなかったですよね。NHKの爆発はしましたということだけであって、直ちに健康に害はないと言っただけで、ひどい話です。私は、だから家族には、あいつらが言っていることは嘘だということは大いにあり得るから、ともかくここは俺を信じてくれというので言ったのですけれどもね。

 そういう形で、放射能の危険性をやはり身近なものとしてとらえて、そこから原発の問題を考えてもらうということがいいんじゃないでしょうか。ぜひそうしてもらいたいと思います。今までのほかの事故の被害と全く規模と性質が違うわけですよね。太平洋は死の海になるんじゃないかと本当に僕は心配しているんです。そうなったときに、それが何十年経てば元に戻るかという見通しは全くないわけですから、明治の大津波でも三陸沿岸で2万人死んでいるんですけれども、しかしきちんと復興していますからね。だから、津波だけだったら何とかかんとか死んだ人間がいても子孫はきちんと復興して、普通の生活ができるようになるけれども、原発はそれはもう不可能ですよね。

【杉井厳一】
 あと、いいですか。

【小野寺】
 確かに今、先生がおっしゃったように、若い先生方は原発というのは、この事故が起きるまでは全く。確かにそうだと思うんですよね。その神話を乗り越えていかなければいけないわけですから、だから選挙をやっても、たぶん原発推進側は結構勝つんじゃないですか。地方選挙になった場合。この前の統一選挙だって、重要な争点としてあげられましたけれども、当落を決定する理由になっていませんからね。各自治体の議会は、おそらく電力の手が回っていますので、選挙になれば推進側が議会の過半数を占めることは間違いないわけです。

 僕は、そういう意味でも今避難をしている方々が、法的な救済をきちんと受けられると同時に、彼らがやっぱり原発の危険性を、彼らの言葉でしゃべってほしいというふうに思っているんです。戦う主体になってほしい。でも、テレビで見ていると怒りがないんです。しようがないとか、嘆き悲しみは言っても、そういうことを引き起こした東電に対する怒りが感じられないので、そこは何とかそうなってほしいなというふうに思うんですね。

【宮本】
 私はそれを感じていて、メディアが声を選択して、そういうふうにシフトしているのではないかという気がするんですけれどもね。

【小野寺】
 嘆き悲しみだけでしょう。怒りがないですよね。もし隣の人がああいうことを引き起こして、自分たちがそういうふうになったら、もうとんでもない紛争に発展するはずですよね。僕は、やっぱりそのためにも避難している人たちに対して早く弁護士がついて、法的救済のお手伝いをしながら、そういう方向に持って行けないだろうかというふうに思っているんですね。どこか事業相談か何かで調査団を派遣して、避難しているところにみずから行って相談に応ずるというようなことをやってもらいたいなと。今、仙台、福島は地元の被災の世話で忙殺されているんですね。ちょっとそこまで手が回らないので、東京の弁護士の皆さんに、ADRを活用するという話もできていますので、さほど厳密な立証はなくても賠償がされるし、1回こっきりじゃなくて何度も賠償を繰り返させることにもなるので、ぜひ皆さんがんばってもらいたい。

【宮本】
 今、最後のところで、日弁連で各県の弁護士会から震災支援に人が行っているでしょう。ところが今一つ問題は、そのための相談料とか、日当とか、そういうのは法テラスが出しているんですね。財務省と法務省から、例によってというか、私は理不尽だと思うけれども、チェックがかかっていて、一件も相談がない場合には出してはならないということになりそうなんです。実情、いろいろな人から聞くと、件数としては相談にならないという場合はあるのだそうです。その場にいても誰も来ないから、みんなが回って、いろんな人の訴えを聞いて回る。一々その人に、「あなたの名前は何ていうんですか」とか、「あなたは収入は幾らですか」なんて聞けないから、相談のカルテも書けない。そうすると件数としては上がらない。それを財務省が目を付けて、一件もケースがないのになんで日当を出すんだということを言って、法テラス訪問を辞めるという通知を出そうとしているんですね。

【小野寺】
 当初は、やっぱり生きるのに必死で法律問題なんていうのは、さっき言ったように日常性の一コマですから、そっちに頭が行かないんですね。私も18日に大島に行って、直後、大島の法律相談を受けましたけれども、広報体制もなかなか手が回らなくて、法律相談をやりますよということが行き渡らなくて、一人か二人しか来なかったというケースもあるのですが、これからじゃないですか。ようやく落ちついて今後の生活を考えると、じゃあ住宅ローンをどうするのかとか、いよいよ生活再建というところになって初めて、つまり日常に戻って初めて我々が出てくるので、非日常のところでは弁護士が来たからって、それよりは食料が欲しいという感じだったんですよ。仙台弁護士会は結構立ち上がりが早くて、災害対策本部というのは阪神大震災の後つくって、ずっと研究してきたので、震災が起きるとほぼ同時に対策本部をつくって、その何日後かに委員長が法律相談のレクチャーをしたのですが、300人の弁護士が集まりました。その後各地の避難所に、どんどん派遣されて、ほとんどクリアしてやっていますので、あれは別に日当が出るとか出ないとか全く関係ない。しかもアクセスができないところを、みずから車に乗ってリュックサックを背負って行っているわけでしょう。その姿勢が重要だと思うんだよね。

【杉井厳一】
 そういう話も日弁連で少し入れるとね。初めて聞きました。

【小野寺】
 本当に仙台弁護士会は立ち上がりがものすごく早くて、すぐ電話相談を引いて、それから各避難所に対する派遣が相当早かったですよ。僕は阪神大震災の後、特別委員会ができて、ちょっとそこまでやる必要があるのかなというふうに思っていたのですが、つくづく、ああやっていてよかった、震災が起きてから急に組織を立ち上げたのでは、とてもじゃないけれども間に合わなかった。事前にやっておいて、もし震災が起きたときには、どういう態勢で臨むかというマニュアルもつくっていましたから、もう即学習会を開いて、300人も4階の講堂が弁護士会の会員で全部埋め尽くされたというので感動的でした。そのままその場で何日は誰々がどこに行けるかというアンケートが回ってきました。自分は、この日が空いているというので印をつけて流したら、それが一斉にスケジュールになって、あなたはここに行け、あなたはこの日、ここに行けというスケジュールが埋まってしまった。私は気仙沼で親戚なんかも被災したので、今回は勘弁してもらったのですが、ほかの方々はもうみんなリュックサックを背負って自分を車を持って、イソ弁なんかを連れて、ダーッと入っていきました。中には確かに相談がなかったのもあったのかもしれないけれども、僕はあの姿勢が大事だと思うんですよね。

【杉井厳一】
 我々自身もどういうふうに取り組んだらいいかというのを考えさせられる機会にもなったと思いますので、決して短い運動ではないと思いますので、これからも私たちは考えたいと思います。今日は、わざわざありがとうございました。

【小野寺】
 ご清聴、どうもありがとうございました。(拍手)

―― 了 ――

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杉野公彦弁護士が、世田谷区立船橋希望中学校で同校1年生を対象とした進路学習において、「職業を知る」ことをテーマに講演いたしました。

 今年2月、世田谷区立船橋希望中学校で同校1年生を対象とした進路学習において、「職業を知る」ことをテーマとした講演を、杉野公彦弁護士が行いました。  同講演では、杉野弁護士から弁護士の職務や弁護士の楽しさについて話をいた…

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「国際男性デー」に思うこと

1  「国際女性デー」は、今や広く世間に知れわたり、各地でいろいろなイベントが取り組まれているのはうれしい限り。ところが、「国際男性デー」は、1999年に始まってから約25年も経つのに、あまり世間に知られていません。かく…

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2月・3月の定例相談日を掲載しました
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松縄昌幸弁護士が後見等について講演をおこないました

 2023年12月2日(土)に松縄昌幸弁護士が、東京・多摩市のトムハウス(鶴巻・落合・南野コミュニティセンター)で「できるだけ安心して老いや最期を迎えるための準備について」と題して講演をおこないました。当日は15名の方に…

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1月の定例相談日を掲載しました
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年末年始休業のお知らせ

 誠に勝手ながら、下記期間を年末年始休業とさせていただきます。
 何卒ご理解とご協力のほど宜しくお願い申し上げます。

【年末年始休業期間】
2023年12月27日(水)12時~2024年1月4日(木)

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松縄昌幸弁護士が「あんしんして老いるには」というテーマで講演します。

 松縄昌幸弁護士が、12月2日(土)に東京・多摩市のトムハウス(鶴巻・落合・南野コミュニティセンタ)で講演を行います。タイトルは「あんしんして老いるには」をテーマに、後見、遺言、死後事務委任等などについてお話しをします。…

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ひめしゃら法律事務所

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