コラム56:国選弁護人を経験して思うこと

2017.7.25 弁護士 佐野 千春

 逮捕された被疑者は、裁判官が勾留の要件(刑事訴訟法第207条、第60条)を判断し、一定の罪を除いて最長で20日間勾留されることになります(刑事訴訟法第208条)。
 死刑又は無期若しくは長期3年を越える懲役若しくは禁錮に当たる事件について、勾留された被疑者は、貧困その他の事由により私選弁護人を選任することができないときは、裁判官に対し、国選弁護人の選任の請求をすることができます(刑事訴訟法37条の2)。
 裁判所は、勾留決定された被疑者から国選弁護人選任の請求があった場合、法テラスの指名に基づいて弁護人を選任します。
 弁護士は、裁判官が勾留決定をした日に、国選弁護人に選任された旨の電話を受け、被疑者が勾留されている警察署の留置場に向かうことになります。

 接見に行くと、今後自分がどうなるのか不安に思っている被疑者がほとんどです。今後というのは、①刑事事件の処分や裁判の結果の見通し(起訴されるのか、起訴されて実刑になるのかまたは執行猶予がつくのか、実刑とすれば期間はどのくらいか)はもちろんですが、②身体拘束が解かれた後に、これまでいた場所(特に家族や仕事)に戻れるのかについても不安に思っています。
 被疑者自身、このような罪を犯した自分は、離婚されてしまうのではないか、仕事は解雇されるのではないかという不安を口にすることもあります。

 私たち弁護士の任務は、被疑者・被告人の利益及び権利を擁護することで、被疑者の身体拘束からの早期解放や不起訴処分にむけてのための活動、公判の準備をすることになります。
 身元引受や被害弁償の相談、身柄解放後の環境調整等をするために家族や会社の人と話をする機会も多くあります。
 そのとき、接見禁止(弁護人等以外の物との面会を禁じる裁判所の決定、刑事訴訟法81条)がついていないのであれば、面会の方法を伝えて直接面会にいってもらうようお願いします。
 家族や上司が面会に来た後に、被疑者に接見にいくと、不安そうだった被疑者の顔が少し輝いてみえます。
 被疑者は、面会を通して罪を犯した自分をこれまでと変わらず支えてくれる人の存在を認識します。
 そして、そのようなとき、自分の今後に不安が少しなくなったときに、被害者のことを思う余裕が生まれ、更に、自分の犯した罪を振り返って考えられるのではないかと思います。
 私たちも被疑者を支えてくれる人とともに被疑者の更生について考えていきます。
 どのように罪を償い、二度と罪を犯さないようにするにはどうすればよいかを考えます。
 逆にこのように支えてくれる存在がみつからない被疑者の場合は本当に悩みます。
 その場合は、範囲を少し広げて考え、これから支えてくれる人を探す活動をします。
 一人では更生できないと思うからです。

 私がいつも頭においていることがあります。
 「少年たちがこの社会のなかに居たい、皆と共にこの社会のなかで過ごしたいと思えなくなった時、社会のルールを破ることを繰り返すようになるのだと考えています。皆と一緒に居たいと思うから、皆と一緒に過ごすためのルールを守る。でも、皆が自分をのけ者にし、一緒に居ることを許してくれないと感じたら、皆と一緒に過ごすためのルールに何の意味も見いだせなくなる。」(「触法発達障害者への複合的支援―司法・福祉・心理・医学による連携―」藤川洋子・井出浩編著)というものです。
 少年非行についての記述ですが、成人にもあてはまるものだと思います。

 勾留されている被疑者にも、この人と一緒に居たいと思える人の存在があればと思い、これからも活動していきたいと思います。

△このページのTOPへ

コラム一覧ページへ

冊子紹介

相談について
取扱分野一覧

離婚相続・遺言不動産、労働、交通事故、消費者被害、成年後見、中小企業・NPO法人・個人の顧問業務、法人破産、債務整理、行政事件、医療過誤、刑事事件、少年事件、犯罪被害者支援、その他

line

「取扱分野一覧」へ >>

新着情報

お知らせを追加しましたNEW
10・11・12月の定例相談日を掲載しました
お知らせを追加しましたNEW
杉井静子弁護士が、シンポジウムで「選択的夫婦別姓を考える!」について基調講演をします

 杉井静子弁護士が、11月25日(土)に東京三弁護士会多摩支部の25周年記念企画のシンポジウム「選択的夫婦別姓を考える!」で夫婦別姓を阻むものについて基調講演を行います。どなたでもご参加可能です。 ■日時/2023年11…

お知らせを追加しましたNEW
トムハウスまつりで無料法律相談を開催します

 10月28日(土)、遺言、相続、成年後見やくらしに関わる事柄について無料法律相談を実施します。鈴木剛弁護士が対応いたします。 時間:10:00~15:30 会場:トムハウス(鶴牧・落合・南野コミュ二ティセンター)   …

お知らせを追加しましたNEW
向陽会(二弁)40周年記念シンポムで杉井静子弁護士が基調講演します

 司法におけるジェンダー平等をテーマに、東京第二弁護士会の向陽会が下記の日程で40周年記念シンポジウムを開催します。弁護士、会員以外の方でも会場参加またはオンライン参加が可能です。 ■日時/2023年10月23日(月) …

エトセトラを追加しましたNEW
法律相談ロールプレイを実施しました

 ひめしゃら法律事務所ではこれまで模擬法律相談(法律相談ロールプレイ)を実施してきました。今年は7月21日に模擬相談の映像の内容について検討する合評会を開催しました。  といっても難しい法律知識を問う口頭試問ではありませ…

コラムを追加しました
青春18きっぷの旅

1 青春18きっぷとは?  すでにご存じの方が多いかもしれませんが、JRが毎年、春夏冬の各長期休みに合わせて発売するきっぷに「青春18きっぷ」というものがあります。これは18歳までしか使えない…というわけではなく、利用者…

お知らせを追加しました
夏期休業のお知らせ

 誠に勝手ながら、下記期間を休業とさせていただきます。  何卒ご理解とご協力のほど宜しくお願い申し上げます。 【休業期間】 2023年8月11日(金)~2023年8月20日(日)

「新着情報・お知らせの履歴」へ >>

ひめしゃら法律事務所

HOME
選ばれる理由
所属弁護士
弁護士費用
アクセス・交通案内
コラム・活動