「国際男性デー」に思うこと
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「国際女性デー」は、今や広く世間に知れわたり、各地でいろいろなイベントが取り組まれているのはうれしい限り。ところが、「国際男性デー」は、1999年に始まってから約25年も経つのに、あまり世間に知られていません。かく言う私も、昨年初めて、毎年11月19日が「国際男性デー」だということを知りました。
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それは、昨年11月19日、新聞各紙やネットニュースが、この「国際男性デー」をテーマに、「男性であるがゆえの生きずらさ」や、「男らしさの呪縛の中で葛藤する男たち」をテーマに、一般男性への取材結果を報道し始めたからです。
取材の結果、出てくるわ、出てくるわ。会社や家庭の中で、男であるがゆえにかかってくるいろいろなプレッシャー。葛藤したり悩んだり、それでも弱みを見せるのは「男の沽券にかかわる」がゆえに相談もできず、酒を飲んで鬱憤をはらす。そんなごくフツーの男性たちの、悲鳴のような生の声。
3 男は家庭の大黒柱であるべき?
男性たちが抱えている一番大きなプレッシャー、それはどうも「家庭の大黒柱」への期待に応えきれないことが大きいように思われます。マンション価格が高騰し続け、物価も値上がりするこのご時世に、家族に広々とした快適な住居や豊かな暮らしを一生涯保証してあげられる「甲斐性のある男性」は、いったいどのくらいいるでしょう。
自宅のローンや生活費、子どもの教育費を得るために、家庭の大黒柱として働かなくてはならない父親。稼ぎが少ない男性は、「甲斐性がない」と評価され、家族にもだんだんと顔向けができなくなってくる。この精神的なプレッシャーは、相当なもののはずです。そんな悩みを、率直に妻に言えれば良いのでしょうが、それがなかなか言い出せない。会社の同僚に相談することも、「自分の弱みを見せること」で、かえって「出世にひびく」ことになりはしないか心配で相談できない。結局夜遅くまで酒を飲んでは鬱憤を晴らし、家族から冷たい目で見られるという、悪循環に陥っている実態が、この「国際男性デー」の新聞報道をきっかけに、社会に認識されることとなりました。
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私が扱ったケースで、一番悲惨だったのは、男性が会社や家庭のプレッシャーからうつ病を患い、退職を余儀なくされたケースです。収入を絶たれてしまった「大黒柱」の彼は、家族を養う金を得るための最終手段として、自死を選びました。自分の生命保険金が下りれば、家族の当面の生活費にはなるだろうと考えたようです。
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今年の1月26日、厚生労働省が「年間自殺者数の推移」を発表しました。それによると、男性の自殺者数は、前年より108人増えて1万4854人。女性は171人減って6964人で、男性が全体の7割近くを占めたこと、自殺の原因・動機については、生活苦や多重債務を理由とした自殺者が460人増えたことが書かれています。この数字は、経済的な負担が、男性にとってより大きな負担となっていることを示しています。
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そもそも、この「大黒柱」プレッシャーをはじめ、男性の生きずらさの原因は、何なのでしょう。それはまず、幼い頃から何かにつけ植えつけられる、「男の子は強く、たくましく」というジェンダー意識です。そして、そのジェンダー意識の上に、戦後の高度経済成長期に推進されてきた「男は仕事、女は家庭」という性別役割分担意識と制度にあります。そして、この役割分担の意識と制度は、もちろん、女性に対しても生きずらさを強いるものになっていることは、つとに指摘されているとおりです。
女性にとって、ジェンダー平等の要求は、様々な分野で花開きつつあり、自由に、自分らしく生きている女性が増えていることは、とてもうれしいことです。でも、「男は仕事」「男の子は強く」というジェンダーの縛りや生きずらさから解放されている男性は、まだまだ少ない。男女の役割分担は、もともと表裏一体のものなのですから、男性の経済的プレッシャーを軽減できる、経済的リスクを分散できるような制度を作っていくことが望まれます。
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「国際男性デー」のインタビューの中に、「育児休暇を取りたいけど、プライベートを優先していると思われて人事評価に影響しそうだから言い出せない」という声もありました。
日本全体での男性の育児休暇取得率は17%と、世界的に見てとても低い水準であることは、よく知られています。育休をとってもその半数以上が2週間未満にとどまっていることも。こういった現状の裏に、企業の人事評価の問題や、「言い出しづらい」という男性の意識の問題があることは事実です。
それに加え、「公(仕事)の方が私(家族や生活)より優先順位が高い」という日本古来の考え方も企業の中にはびこっており、ジェンダー意識とあいまって「ワークライフバランス」の実現を邪魔していることは、もっと社会的に問題視されてよいのではないかと思います。
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昨年11月19日に、新聞各社が「国際男性デー」を記念して男性たちの生の声を取材し、公表したことは、「男性の生きづらさ」の本音をとおして、男性側から見たジェンダー問題を提起してくれました。
女性たちが声を上げたことが、日本のジェンダー平等を実現する力になってきたように、男性たちがひるまずに本音をつぶやき続けることが、「仕事にまい進する男性」というゆがんだジェンダー規範に縛られた社会を変えていく力になることを、心から期待しています。