城の崎にて~城崎裁判

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 そこで、このコラムで旅行に行った気分を味わえるよう、バーチャルトリップをお楽しみください。

1 玄武洞
 京都駅31番線から、JR山陰本線を走る特急「きのさき」に乗車して2時間弱経つと、車窓の右手に線路と並行して流れる川が現れる。これが円山川だ。特急は円山川と並行しながら、そのまま下流へと向かう。30分ほど走ると豊岡に到着。豊岡はコウノトリの里で有名だ。
 豊岡駅を出て少しすると左側から山が、川を挟んだ反対側の山も段々と迫り、ちょうど狭まったところ、列車から川向こうに見えるのが「玄武洞」だ。
 玄武洞は、流れ出た火山の溶岩流が表面は速く、内部はゆっくりと冷えてできた黒い色合いの玄武岩が採掘されていた跡地だ。六角形の柱状節理が見事な玄武岩は、人の手によらず、自然にブロック状に分かれているため、建築資材として重宝される。
 ガイドによれば、「玄武岩が採れるから玄武洞というのではなく、玄武洞で採れる岩だから玄武岩という」とのこと。
 玄武洞と名付けられたのは、1884年。「玄武」は方位を司る四神のうち、北方を守護する蛇と亀が合体したような姿の神で、黒色の意味がある。そのため、六角形の柱状節理を亀の甲羅に見立て、その黒い色合いから、玄武と名付けられたという。
 そんな玄武洞を右手に見ながら、列車が円山川沿いを下って行くと、左手に広がる町が現れる。それが城崎温泉、今日の目的地である。

2 城の崎にて
 城崎温泉は数多くの文豪が訪れた温泉地として知られる。中でも有名なのは、『城の崎にて』を書いた志賀直哉だろう。
 『城の崎にて』は、主人公が、電車に轢かれて九死に一生を得たのち、療養のため城崎温泉を訪れるが、宿の雨樋に転がり他の仲間からは見向きもされない蜂の死骸、子どもらによって首に串を刺されて川に落とされながらも必死に逃げ惑う鼠、自身が投げた石がたまたまあたり生命を落としたイモリのそれぞれの死や生への執着を通じて、生と死、その差が紙一重であることを感じ、生きている自分のことを顧みるという話。
 城崎温泉に到着したら、川沿いの北柳通りを歩き、風情ある町並みを楽しみながら、イモリを探す、それがこの小説を読んだ誰もがやることだろう。

3 湯めぐり
 宿にチェックインしたら、浴衣に着替え、湯めぐりパスを持って、外湯回りへと出かけよう。城崎温泉には7つの外湯がある。それぞれ、風呂場の趣向が凝らされ、雰囲気も異なるため、7つとも制覇したくなる。それぞれの開湯時間は異なるので、すべてを制覇しようとする場合は、どの順序で回るか、それが重要になる。慎重に入る順番を考えよう。
 まずは、駅前通りと北柳通が交差するところにある「地蔵湯」に浸かろう。湯はかなり熱いので、のぼせないように気をつけながら。地蔵湯を後にしたら、川沿いを上流へと向かう。
 お腹が空いていたら、川沿いの地ビール「城崎ビール」が飲める小さなレストラン「グビガブ」で但馬牛を楽しみ、地ビールで喉の渇きを潤わすことができる。とても美味しい。
 お腹が満足したら、その隣にある「柳湯」へ。柳湯を堪能したなら、その足で200mほど上流まで行けば、次のお湯、「一の湯」がある。
 一の湯を出て右手に進むと、道はいったん川から離れ、道の両脇にはお土産物屋が立ち並んでいる。お土産はあとで買うことにして、ひとまずそのまま歩みを進めよう。
 右手に「御所の湯」、さらに進んで左手の路地を突き進めば「まんだら湯」、路地に入らずに道なりに進んだ右手には「鴻の湯」がある。
 最後のひとつは駅前にある「さとの湯」。ここは城崎温泉を発つ前に立ち寄ればいい。さて、お湯をひととおり堪能したら、明日の一番風呂を狙うために早めに休むことにしよう。

4 城崎裁判~誰がイモリを殺したか
 さて、志賀直哉の『城の崎にて』を読むとふと疑問に感じることがある。小説では、川に投げた石が岩の上で休んでいたイモリにたまたま当たり、死んでしまったことから、主人公は「自分は偶然に死ななかった。イモリは偶然に死んだ。」「生きていることと死んでしまっていることと、それほど両極ではなかった。それ程に差はないような気がした。」と述べるが、そもそも主人公が石を投げなければ、イモリは死なずに済んだのではないか。イモリを殺しておいて、生と死は紙一重などというのは何ごとか。
 ということを考えながら、宿の売店で見つけたのは万城目学の『城崎裁判』。これは、志賀直哉のイモリ殺しの罪を問い、小説家の創造の源泉を探る不思議なお話。驚くことに、その外観はタオル。中身は耐水ペーパーに印刷された小説。つまり、お風呂に持ち込んで読める本なのだ。城崎温泉でしか買えない「本と温泉」シリーズの一冊。これを読んで、イモリ殺しの責任の所在を考えながら、湯めぐりをするのもいいだろう。
 湯めぐりを一通り楽しんだら、同じく本と温泉シリーズの湊かなえによる『城崎へかえる』を読んでみるのもいい。こちらの外観はカニの脚。中身はカニの身のような小説。読み終えるころには、カニを食べたくなること間違いなし。カニを食しながら、地酒の香住鶴を楽しもう。

5 おわりに
 湯めぐりを楽しみ、カニや地酒、地ビールを満喫したら、家族、友人・知人、職場へのお土産を買っておこう。帰る前には、もちろん駅前の「さとの湯」でひとっ風呂浴びて。

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