最後のお弁当
唐突な話であった。
「『○○ちゃん』(我が家の二女)のお弁当、今週で最後だよ。」
高3になった二女、3学期は受験に備えて午後の授業がないので、今週(12月第1週)を最後に、お弁当が要らなくなるらしい。
そしてそれは、私の8年間のお弁当作りの日課の終焉であった。
小5で突然「塾に通いたい」と言い出した二女は、お弁当を持って2年間塾に通い、その後給食の無い中学、高校に通い続けた。私たち夫婦は、1日おきに朝6時に起床し、二女のお弁当を作るのである。
いろいろ失敗もあった。二日酔いで意識が朦朧としたまま調理を始め、スープジャーを間違えて電子レンジに入れてダメにしたこともあった。
二女は女の子二人兄弟の下の子であり、甘やかされて育ったのか、我儘放題であった。
野菜が嫌いで、魚も食べられない二女は、気に入らない食材は容赦なく食べ残した。米だけ食べて、おかずには全く手を付けていないこともしばしばであった。
特に、父親である私の献立を褒めることは全くなく、逆に、「パパはいつになっても私の食べられないものが分かってない。」であるとか、「また、パパの作ったお弁当に卵の殻が入っていた!」などと妻に文句を言っては悪戯をした後のような表情で笑うのである。
そんな日々も今週で終わる。私は二女に尋ねた。
「今週でお弁当が最後だけど、パパの弁当持っていく?それとも学食で弁当買う?」
二女は答える。「どっちでもいいや。作ってくれるんだったら持っていく。」
やはり、なんとも素気ない、いつも通りの返事であった。しかし、二女は最後に一言だけ付け加えた。
「パパは卵焼きが上手になったねえ。」
「分かった」と言って私は寝室に行き、二女はリビングで受験勉強を始めた。寝室で一人になったら、なんだか瞼のあたりが熱くなった。どうしてこんな切ない気持ちになるのだろう。
翌朝、最後のお弁当の献立は卵焼きとウインナーを選んだ。今まで食べてくれてありがとう。