時間(とき)を刻む光に 

15年前の2011年3月11日。
この日発生した東日本大震災の強い揺れと甚大な被害を前に、私たちは言葉を失いました。テレビから次々と流れてくる、家や車、そして街が濁った水に飲み込まれていく光景は、現実とは思えず、ただ呆然と見つめ祈ることしかできませんでした。

当時、私の息子はまだ1歳になる直前でした。まだ歩くことはできず、つかまり立ちをしては尻もちをつく、そんな時期でした。
いつもと変わらない午後、部屋は突然大きく揺れ始め、窓から見える景色も揺れていました。とっさに息子を抱き上げると、何が起きているのか分からない様子で私の服をぎゅっとつかんでいました。
腕の中のまだ小さくて温かい息子の体。
この小さな命の重みとテレビの中の出来事がうまく結びつかないような、不思議な感覚とともに「この子がこれから生きていく世界はどうなってしまうのだろう」――そんなぼんやりとした不安が、胸の奥に静かに広がっていきました。

あの日、大切なものを、そして大切な誰かを失った多くの人にとって、時間は止まってしまったかのように感じられたことでしょう。
けれど実際には時間は止まることなく、どんな出来事があっても静かに流れ続けていきます。

現代美術家の宮島達男は、その「時間」という普遍的な概念を、テクノロジーによって可視化してきた作家です。
彼の作品では、多数のLEDデジタルカウンターの数字が「1」から「9」まで点滅を繰り返しながら、それぞれ異なるスピードでカウントを続けます。そこには「0」は現れません。一瞬の暗闇をはさみ、また新たなカウントが始まります。
生命にも時間にも完全な終わりは存在せず、変化しながら続いていくという考えが作品には込められています。

震災のあと、宮島は「時の海―東北」プロジェクトを立ち上げました。
震災の犠牲者への鎮魂と記憶の継承、そしてこれからの未来をともにつくることを願い、プロジェクトに参加した3,000人が思い思いのスピードに設定したLEDデジタルカウンターを配した作品は現在も制作が続けられています。
そしてその作品が設置される美術館は、かつて震災によって全町避難を経験した福島県富岡町の海が見える丘にこれから建設される予定です。

時間の進み方は、誰にとっても同じではありません。震災からの時間を早く感じる人もいれば、ゆっくりとしか前に進めない人もいます。
海を前にそれぞれ違う速さでカウントし、変わり続ける無数の光は、止まってしまったかのように感じられた時間がそれでも確かに進み続けていることを訪れた人々に思い出させ、それぞれの歩みをそっと肯定してくれる場所となることでしょう。

宮島の作品は、立川駅北口に広がるファーレ立川アートにも設置されています。
にぎやかな街の一角に設置されたその作品を見るたびに、私は時間の流れに思いを馳せます。
あの日まだ歩けなかった息子も、いまでは見上げるまでに成長しました。
震災の記憶は息子の中には残っていません。
それでも、あの日から続く時間の中で成長してきた姿を見ると、時間の確かな積み重なりを感じます。

現代アートは、世界をすぐに変える力を持っているわけではないかもしれません。
けれど、立ち止まった私たちに寄り添い、物事を見つめ直すきっかけを与えてくれることがあります。
あの日から続くそれぞれの時間をそっと思い出させてくれる作品が、この街にもあります。
それらの光は、それぞれの速さで歩いていく私たちを静かに照らしながら、今日も変わらず時を刻んでいきます。

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