コラム1:裁判員裁判を傍聴して

2009.11 弁護士 大出 良知

 裁判員裁判が今年(09年)8月3日、本格的にスタートしました。11月半ばには、既に全国で70件を越える裁判が行われています。私も、そのうち4件を傍聴することができました。そこで、傍聴しての印象を含めて、裁判員裁判の実施状況について可能な範囲で簡単にご報告したいと思います。
その実施状況については、新聞各紙やテレビでまだまだ報道が行われています。最高裁が行った裁判員経験者に対するアンケート調査の結果も公表されていますので、お読みになった方も多いと思います(11月18日新聞各紙参照)。8月と9月に裁判員を経験した84人のうち、79人が回答し、そのもっとも特徴的な点は、その経験を肯定的に評価した人が、97.5%にのぼったことです。裁判員になるまでは、裁判員になることに消極的だった人が、56.9%もいたにもかかわらずです。その理由と考えられるポイントは、審理内容が、「理解しにくかった」という回答が、わずか3.7%しかなかったことです。
それは、傍聴してみても強く感じる点です。検察官や弁護人が、以前の法廷とは全く異なり、ゆっくり分かりやすい言葉で審理が行われているだけでなく、視覚的にも内容を分かりやすく伝える様々な工夫を行っているからです。裁判の原則が、公開された法廷での分かりやすい審理によって行われるべきであるということからすれば、ようやく本来の裁判が行われるようになったと言っていいかもしれません。調書(文書)化された証拠を、裁判官が裁判官室で読むことが中心になっていた「調書裁判」が大きく変わってきたことは間違いないでしょう。そして、それはなにより、ようやく被告人にとっても分かりやすい裁判になったであろうということが極めて重要です。
しかし、現在までは、事実に争いがなく自白している事件がほとんどだったからかもしれませんが、調書が証拠として採用されていることも決して少なくありません。しかも、出頭している証人や被告人の供述録取書(被告等が供述したことを警察等が書き取り、被告人等が認めた書面)までが、採用され朗読されたりしています。
10月27日から29日まで、東京地裁立川支部で行われた第1号事件でも、検察官請求の被告人の犯行状況についての供述録取書や近親者の情状についての供述書が採用されていました。犯行状況については、被告人自身が供述させられるよりは良いと思ったのかもしれませんが、後に犯行経過について裁判員等から質問が出されたことからしても、被告人自身の言葉で明らかにすべきであったと思われます。情状についての調書は、要旨の告知しか行われませんでした。
弁護側が守勢にまわっているとはいえ、裁判員裁判を採用した意味を、弁護側から堀崩すようなことは、避ける必要があります。直接、本人に確認のしようがない供述が、裁判員に感銘を与えることにはならないであろうことを法律家はあらためて肝に銘じるべきです。全体的に見れば、裁判員からは法律専門家には期待できないような的確な質問が多く出されています。立川でも、犯意の発生時期に関わって、男性の裁判員から、「私が被害者と同じような状況にいた場合にも、被告人は同じ行動をとったんですかね」ときかれて、被告人は絶句せざるを得ませんでした。
量刑についても、全体としてみれば、開始前に心配された重罰化傾向は見られません。これまでの量刑相場より重いと思われるケースもありますが、それは、形式的な量刑相場ありきといった検討ではなく、個々の事件の内容や被告人の姿勢などについての実質的な検討を反映したもの考えるべきでしょう。
いずれにせよ、裁判員裁判ははじまったばかりです。とりあえず、順調にスタートを切ったことは間違いありません。しかし、これから課題も明らかになってくるでしょう。傍聴もしやすくなってきますし、開始当初の関心を一過性のものに終わらせることなく、分かりやすくなった裁判を多くの国民が傍聴し、課題を明らかにしていくことが重要です。裁判所のホームページに、裁判の予定が掲載されますので、是非傍聴に出かけてみていただきたいと思います。

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