コラム15:司法支援センターの現在

2011.10 弁護士 宮本 康昭

1.きのう(7月13日)の報道では、わが国の国民の貧困率(全国民の所得額の中央値の半分に満たない人の割合-中央値は平均値とは異なり、平均値はもっと高い)は、これまでの最高の16%に達したということです。OECD加盟30ヶ国の平均は10.6%ですから、わが国の国民の所得格差は相当に大きいことになります。
従来、国税庁による所得の五段階ランクづけで最低にあたる第一分位、年収200万円以下の世帯が全体の20%を占めるとされており、この20%の人たちが司法支援センター(法テラス)の法的援助の対象とされていたのですが、昨年の段階で年収200万円以下の層は全世帯の34%を占めるに至っているということです。つまり、いま日本では国民の三分の一が最低の所得層に属するに至るという、格差と貧困が進行しているのです。
日本の社会を覆う格差の法的分野での解決を目ざす法テラスが担わなければならない分野がますます広くなって来ています。

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2.このような状況に即応するために法テラスはいろいろな努力をしていますが、当面の課題のいくつかを箇条書風にあげると次のとおりです。
第1に、初回相談の無料化です。
いま、法テラスが受ける相談についても扶助事件についてもたとえば単身で月収20万円以下、2人家族で月収27万円以下、というような資力による制限を設けていますが、1回目の相談はこの制限を設けないことにしようというものです。
第2に、扶助費用を原則給付制にすることです。
いまは扶助費用は貸付制(月賦であるいは一部まとめて返して貰う)ですが、これを給付制を原則として例外的に負担金制にしようとするものです。これは部分的には生活保護世帯、準生活保護世帯について実施しはじめています。
第3に、法テラスの仕事を担う契約弁護士(司法書士)、法テラスの仕事に専従するスタッフ弁護士を増やし、スタッフ弁護士事務所を増やすことです。たとえばスタッフ弁護士は法テラス創立時に24人だったのがいまは225人になっていますがもっと増やしたいし、法テラス法律事務所はいま84ありますが、弁護士過疎地の事務所(四号事務所、現在31)を中心にもっと増やしたいのです。
これらのことは、法的な援助を強め、市民の要求に応えていこうとするもので誰にも異論のないことのように思われます。

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3.ところが実際には、それらのどれもがなかなかスンナリと運んでいないのが現状です。それにもいろんな要因があるでしょうが、上の第2の扶助の原則給付制については政府、ことに財務省の消極姿勢だろうと想像がつきます。
そして第1の初回無料については、法テラス内部での意見がまとまらないのもさることながら、意外にも(意外ではないというか)弁護士・弁護士会の反対が大きいのです。無料化を全体に広げたら法律相談を全部法テラスに持って行かれて弁護士事務所や弁護士会の相談センターに来なくなる(現に各地の弁護士会相談センターの相談件数は激減している)というのです。
第3のうちでスタッフ弁護士事務所についても受入先の弁護士会が希望しないあるいは反対する、というのがあります。きまっていた四号事務所の設置がとりやめになったのが昨年だけでも1、2ヶ所ではありません。いずれもその地域に弁護士や弁護士事務所が参入して来ることへの拒否反応だと見られます。
しかし、それはいずれも違う、と私は思います。
問題の核心は現代社会の矛盾をまともに受けて苦しむ人々がいまの日本に層となしているということ、それらの人々の利益と生活をどうやって守るかということです。弁護士(会)の業界の論理や弁護士の経済的利益の問題はそこに入りこませてはならない筈です。貧困や格差はビジネスチャンスではないのです。

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4.契約弁護士やスタッフ弁護士を増やすことについていうと、スタッフ弁護士の希望者は増えていますが、それを養成する弁護士事務所が足りません。契約弁護士も思ったほど増えません。いま契約弁護士は全国で15000人(国選弁護人の契約は19500人)で法テラスの業務を支える大きな力となっていますが、会員総数3万人の半分(国選の契約は三分の二)です。東京、大阪では特に契約率が低いのです。もっともっと法テラスを支える弁護士の層を厚くしたいものです。

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5.われわれの事務所では全員が契約弁護士ですし、事務所で養成を受けた岸、大谷の2人は現役のスタッフ弁護士、中田、宮本の2人はスタッフ弁護士を経て事務所に入りました。来年1月からまた養成事務所としてスタッフ弁護士を受け入れます。
法テラスを強くし、社会の格差に挑む力の一翼を東京・多摩で担っています。

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