コラム26:ハーグ条約締結による国内実務への影響

2013.7.22 弁護士 高田 慎二

1 ハーグ条約締結に向けた動き

 平成25年5月22日,国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)が国会で承認され,同年6月12日には,ハーグ条約に加盟した場合の国内手続きを定めた条約実施法が成立しました。同年5月現在,世界で89ヶ国がハーグ条約を批准しており,G8諸国中で未締結であるのは,日本だけでした。ハーグ条約の理念は,国境を越えた子どもの連れ去りに関する国際社会におけるコンセンサスとなっているといえる状況です。

 ハーグ条約の理念は,簡単にいえば,子どもの監護についての判断は,子どもの元の居住国の裁判所が判断すべきであるから,子どもが不当に国境を越えて連れ去られた場合は,子どもを元の居住国に返還することを原則とすべきである,というものです。

 では,日本がハーグ条約を締結することによって,国内実務はどのような影響を受けるのでしょうか。

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2 子どもの原則返還?

 ハーグ条約締結により,国内事案でも,まず子どもを元居た場所に戻すべきという流れが拡大していく可能性があります。子どもの連れ去りは,子どもにとってそれまでの生活基盤が突然変わってしまうことになりますし,一方の親や親族との交流も断絶されてしまいます。一方の親から子どもを引き離してしまうことは,子どもの健全な成長を妨げるものであるといえますから,子どもを原則返還するという考え方には基本的に賛成できます。

 ただし,DVや虐待を受けていた場合に,子どもを連れて逃げ出せないということになると,逃げ場がなくなってしまい,DVや虐待の被害から抜け出せなくなってしまうのではないかという問題もあります。ハーグ条約締結国においては,子どもを返還しない例外的事由の適用はかなり制限的であるといわれていますが,DVや虐待が疑われる事案では,例外事由について比較的広く認めていくべきでしょう。

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3 共同親権制?

 ハーグ条約締結国の中には共同親権を認めている国が多いため,国内でも共同親権制導入の議論が高まってくる可能性はあると思います。共同親権制の趣旨は,離婚後も子どもが両親と関わりを持ち続けることが,子の健全な成長にとって重要であり,共同親権制にした方が,両親ともに責任を持って子に関与することを促すことにつながり,子どもにとって利益となるという点にあると思われ,これ自体は正当であると思います。

 しかし,私としては,共同親権制の導入には,慎重であるべきと考えています。まず,共同親権制は,離婚後も子どものことについて両親の合意が必要になるので,夫婦間の争いが離婚後も続いてしまうのではないかという問題があります。離婚する父母の間には,少なからぬ対立ないし葛藤があるわけであり,互いに信頼関係を喪失しているでしょうから,そのような両親に今後子どものことについて協力しあうことを期待するのは難しいのではないでしょうか。

 そのため,共同親権制を導入するのであれば,離婚後までフォローする公的機関や民間団体の存在が必要であると思います。しかし,日本では,そうした公的機関等はほとんどないという状況であり,日本と欧米諸国とでは,離婚後のサポート体制に大きな差があります。

 したがって,共同親権制を導入する下地はまだ日本にないのではないかと考えています。今後の共同親権制導入の議論の深化を注視していきたいと思います。

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