取調べへの弁護人の立会いの実現を
えん罪事件が話題になるたびに問題になるのが、密室での長時間にわたる無理な取調べによって得られた「虚偽自白」です。その「虚偽自白」を防ぐ方策については、延々議論されてきました。捜査当局や裁判所の対応が決して積極的でない中、被疑者に対する弁護の充実による防止が追求されてきました。そのために、接見自由原則の確立、当番弁護士制度、被疑者国選弁護制度などを実現してきました。最近では、一部の事件についてですが取調べ全過程が録画・録音されることにもなりました。
しかし、弁護の立場からする究極の防止策ということになれば、それは取調べへの弁護人の立会いです。もう半世紀以上前の1966年にアメリカで、立会いが認められることになり、今やヨーロッパをはじめアジアの韓国、台湾など多くの国で立会いが認められることになっています。
にもかかわらず、日本では、法制度化への検討の俎上にさえのっていません。立会いを認めていない日本の現状が、繰り返し国際的な批判に曝されることになっているにもかかわらずです。
ということで、この秋(2019年10月)、そのような事態を打開しようという本格的な議論が行われることになりました。徳島で開催された日本弁護士連合会の人権擁護大会シンポジウム第1分科会が、「取調べ立会いが刑事司法を変える-弁護人の援助を受ける権利の確立を」をテーマに、様々な角度から検討を行ったのです。
そして、人権擁護大会では、法制化を求めただけでなく、法制化がなされるまでの間、「各捜査機関の捜査実務において、被疑者又は弁護人が求めたときは、弁護人を取調べ及び弁解の機会に立ち会わせることを求める」とする宣言も採択しました。
ようやく第一歩が踏み出されたと言ってよいでしょうが、実はこの問題は、旧憲法・旧刑事訴訟法の下での刑事手続における人権侵害に対する反省から、現行憲法・現行刑事訴訟法の制定過程で、導入が検討されていました。
まず憲法については、GHQが日本の法律家の意見に依拠した提案として自白の証拠能力の要件として弁護人の立会いを求める条文案を用意していました。その提案は、GHQ内部で、現行38条2項の自白の証拠能力についての制限によって代替できるということになり、実現はしませんでした。
その後、刑事訴訟法の国会の審議でも、議員から、「被疑者の取調べに立会えないとすれば、弁護人を被疑者につけるという意味は、大部分抹殺されてしまうだろう」との質問が出されることになりました。これに対して政府委員は「今の日本の段階におきましては、そこまでさせることは、捜査の敏活に差し支えある」として否定します。そして、その不十分性は、黙秘権と自由な秘密交通権の保障によって補いうると応えていました。
立法過程で立会いを回避したGHQや政府関係者の以上の予測は、早々に的外れということになりました。にもかかわらず、弁護人の立会いは実現せず70年が経過することになってしまいました。その刑事訴訟70年の展開を主として刑事弁護に焦点を合わせて振り返った拙著を、弁護人の立会いの実現を願って人権大会に合わせて上梓しました。『刑事弁護の展開と刑事訴訟』(現代人文社刊)です。ご一読いただければ幸いです。