コラム18:弁護士 麻生 由里亜

時間との戦いの家事事件

2012.3 弁護士 麻生 由里亜

 「家事事件と聞いたときどのような印象をもつでしょうか」。これは、私が裁判所の家事部で研修(修習)をしていた時に裁判官から聞かれた質問です。私が真っ先に想像したのは、家庭内の問題を抱えた当事者の気持ちに寄り添ってゆっくりと事件を解決すべき事件というものでした。

 ところが、弁護士になって相談を受けるなかで、緊急性のある、いわば時間との戦いとも言える家事事件があることが分かってきました。
 その中でも、別居中の配偶者もしくはその親族から子どもを奪い去られ、その子の引渡を求める事件は緊急性の高い事件と言えます。
 子どもを奪い去られた場合に、弁護士に相談に行くと、「離婚調停を申し立て、親権を主張しましょう」と調停を薦められることがあります。実際私も、「弁護士から薦められて調停を始め、その後の訴訟で何年もの時間をかけて上告までしたのに親権を取得できませんでした。もう他に手はないのでしょうか。」とう相談を受けたことがあります。

 一般に裁判所は、子どもが監護・養育されている現状を維持することを重視し、現実に監護している親を親権者と判断することが多いと言われます。特に年月が経過すればするほど、環境を変化させることは子どもにとって負担が大きいと判断されるため、子どもを奪い去られた親が親権を取得することは困難になります。

 そこで、子どもを奪い去られた場合には早急に、家庭裁判所に対し、①子の監護者指定の審判、②子の引渡の審判、③①・②の審判前の保全処分を同時に申し立てる必要があります。この3つの申立をすると、審問が開始され、家裁調査官という専門家が家庭訪問などをし、①、②の審判がなされます。③の保全処分は、審判「前」の処分となっていますが、実際には①、②の審判と同時になされるのが一般的です。

 なお、家事審判法では、③審判前の保全処分の申立ては審判係属を要件としているため、審判の申立てと同時に申し立てる必要があります。しかし同法に代わり施行が予定されている家事事件手続法では、必ずしも審判の申立てまでしなくとも、保全処分を申し立てることが可能となります。これにより早期の保全処分が期待されるところです。

 子どもの引渡は最初が何より肝心です。子どもの人生にとってとりかえしのつかないことにならならぬよう、家事事件に精通した弁護士に早期に相談することをお薦めします。

 高校生の模擬裁判員裁判授業の傍聴は、裁判員裁判が、わが国における民主主義を深化させ、また刑事裁判の改革につながることを確信させてくれた、すばらしい体験でした。

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