コラム54:ミステリーの中の司法制度(2)
2017.5.26 弁護士 岸 敦子
前回に引き続きミステリー小説の話です。海外(主に英米)のミステリーだと、人が死んで(殺されて)、葬儀を終えて、その場に集まった遺族の前で遺言状が読み上げられる場面があります。読み上げるのは遺言状を保管していたその家の弁護士で、集まった遺族一同は固唾をのんで聞き入り、予想外の遺言の内容を巡って騒動となり、更に人が殺され謎は深まる・・・という展開が定番です。横溝正史の作品などでもこのような場面はあるようですが、現代日本では現実にこのような場面が生じる可能性は低いと思われます。
そもそもの話、これまでは遺言を残している人があまり多くはなかったことからか、葬儀の後に遺族が集まった席で遺言を読むという習慣が日本にはないようです。また、上記のような場面は、遺言を弁護士だけが保管していることが前提です。しかし、日本だと公正証書遺言であれば公証役場が保管しています(作成に関わった弁護士が謄本等を保管していることはあり得ますが)。相続人であれば遺言の有無の確認や、遺言の謄本の請求が出来るので、遺族は公証役場に確かめに行くことができます。
自筆証書遺言の場合、弁護士が預かっているとしても、それが開封されるのは裁判所での検認の時です。したがって、遺族(相続人は検認に立ち会えます)が内容を知るのは葬儀の後の席ではなく、裁判所ということになります。
ですので、私自身はご遺族の前で遺言状を読み上げたことはありません。憧れのミステリー小説の再現が出来ないことが少し残念でもあるのですが(不謹慎ですみません)、実際には葬儀直後のご遺族の前で遺言を読むというのはかなりの気遣いと強心臓が必要でしょうし、小説の中だと読み上げた弁護士が殺されることもあるので、読まない方がいいような気もします。